心不全治療に効く?医療保険が使えるサウナ『和温療法』とは

温泉・入浴

はじめに

近年のサウナブームにより、リフレッシュや疲労回復、健康づくりの一環としてサウナを利用する人が増えています。
実際、正しく入浴すればサウナは健康に良い影響を与えることが、さまざまな研究で明らかになっています。

しかしその一方で、心不全や高血圧など持病のある方にとっては、一般的なサウナは身体への負担が大きく利用が難しいです。
また、通常のサウナは医療ではなく娯楽とされるため、料金は当然全額自己負担となっています。

ところが、実は重度の心不全患者を対象に、医療保険が適用される“サウナ治療”があるのをご存じでしょうか?

今回は、心不全に対する治療法として承認されている「和温療法」について詳しくご紹介します。

和温療法とは?

和温療法とは、専用のサウナ器を用いた「60℃・15分の遠赤外線 乾式サウナ療法」です。

治療の流れは以下の通りです。

①専用のバスローブに着替え、60℃の遠赤外線乾式サウナ15分間入浴する。

②サウナから出た後は、バスタオルで全身を包み、30分間安静に保温する。

③発汗量に応じた水分補給を行う。

和温療法によって、血管内皮から一酸化窒素が多く産生されて血管機能が改善します。
また、心臓の負荷を軽減することにつながり、心不全の改善に有効です。

こうした医学的効果が評価され、2020年に和温療法は心不全に対する医療保険の適用対象として承認されました。

一般のサウナや入浴(温水浴)とどう違うの?

フィンランド式サウナなどの一般的な高温多湿のサウナは、健康な人にとっては血行促進や自律神経の調整など、循環器系に良い影響を与えることが知られています。

しかし、これはあくまで「健康な人」に適した方法であり、心不全をはじめとする循環器疾患のある人にとっては、かえって心臓への負担が大きくなります。
また、通常の入浴(温水浴)も心不全の程度によっては、負荷が大きく制限される場合があります。

一方、和温療法は、そうしたサウナや入浴が難しい「重度の心不全患者」「高齢者」にも適用できる点が大きな特徴です。

下図は一般的な入浴(温水浴)と和温療法による心内圧の変化を比較したグラフです。

参考) Tei C, Horikiri Y, Park JC, et al: Acute hemodynamic improvement by thermal vasodilation in congestive heart failure. Circulation 1995; 91: 2582-2590.

通常の入浴では入浴中に心内圧が上昇し、心臓への負荷が増加します。
高温サウナでも同様の現象がみられ、心不全患者にとってはリスクとなり得ます。

それに対して、和温療法ではサウナ浴中に心内圧がむしろ低下しており、心臓への負担が抑えられることが示されています。

心臓に優しく、かつ温熱による健康効果が得られるのは、和温療法ならではの利点と言えるでしょう。

心不全患者に対する和温療法の効果

では、和温療法は実際に心不全患者の予後にどのような影響をもたらすのでしょうか?
以下は慢性心不全の患者を対象に、和温療法の長期経過を追跡した研究結果です。

参考)Kihara T, Miyata M, Fukudome T, et al: Waon therapy improves the prognosis of patients with chronic heart failure. J Cardiol 2009; 53: 214-218

和温療法を受けた群(薬物療法に週2回の和温療法を継続した群)で、死亡または再入院のリスクが1年目から有意に低下し、5年後にはコントロール群と比べて半分以下にまで減少しています。

和温療法のさらなる可能性

和温療法には心機能改善以外にも、交感神経抑制作用リラックス作用抗酸化作用などのさまざまな生理的効果が確認されています。

また、現在は重症の心不全患者のみが医療保険の対象となっていますが、今後は以下のような難治性疾患への応用も期待されています

  • 閉塞性動脈硬化症
  • 慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎
  • 線維筋痛症
  • シェーグレン症候群
  • 潰瘍性大腸炎 など

これらの中には、現在も有効な治療法が限られている疾患もあり、和温療法が新たな選択肢となる可能性があります。

医療機関での導入が進まない理由

ここまでご紹介してきたように、和温療法は心不全患者にとって有効性が認められた治療法です。
しかし、「和温療法を聞いたことがない」という方も多いのではないでしょうか。
実際、和温療法を実施している医療機関は限られています。

その大きな理由の一つが、医療機関側にかかる負担の大きさです。

J047-3 心不全に対する遠赤外線温熱療法(1日につき) 115点

診療報酬点数

和温療法の診療報酬(保険点数)は115点。つまり、病院の収益は患者1人につき約1,150円にしかなりません。

一方で、和温療法は「着替えや準備、治療後の保温等を含めて約90分の時間が必要」「専用のサウナ器の導入費用がかかる」「設置スペースの確保やスタッフの配置」といった負担があり、コストや人手に見合った収益が得られにくいのが現状です。

そのため、多くの医療機関では導入を見送るか、自費診療として提供せざるを得ない状況となっています。
治療効果があるにもかかわらず、治療を受けられる場が限られているのは非常にもどかしいですね。

和温療法が受けられる施設が増えるよう、制度や仕組みが変わることを期待しています。

まとめ

今回は、医療保険が使えるサウナ「和温療法」についてご紹介しました。

和温療法は、60℃の乾式サウナを用いた治療法であり、心臓への負担を最小限に抑えながら、血管機能や心機能を改善できる有望なアプローチです。
すでにその効果は医学的にも認められており、重度の心不全患者に対しては医療保険の対象として承認されています。

専門の設備が必要であるため、自宅や一般的なサウナ施設で体験することはできませんが、「持病があるけれど、サウナの温かさを楽しみたい」「心臓に負担のない治療法を試してみたい」と感じている方は、和温療法を導入している医療機関を一度調べてみるのも良いでしょう。

参考)『最新温泉医学』日本温泉気候物理医学会 p45-55

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