【ドイツの医療】クアオルトって何?
クアオルト(Kurort)とはドイツ語で、「治療」や「療養」を意味する「クア(Kur)」と、「場所」を意味する「オルト(Ort)」が組み合わさった言葉で、「療養のために訪れる場所」という意味です。
ドイツでは19世紀から発展し、自然の力を活かした医療が行われてきました。
国が認定した地域では医療保険を利用して療養することも可能です。
クアオルトでは、以下の4つの自然要素が療養に良いと認められています。

また、ここでは「気候性地形療法」と呼ばれる自然を活かした運動療法が行われています。
これは、気候や地形など自然条件を利用して運動を行い、体の調子を整えていく方法です。
クアオルトには、豊かな自然、公園、温泉、レストランなどの施設が充実しています。
また、医師や専門家による健康プログラムが行われており、これらは「クアオルトの概念規定」により厳しく管理されているため、高い品質が保証されています。
そのため、訪れる人は安心して自然の中で心と体を癒やすことができます。
現在、ドイツでは年間2,000万人以上がクアオルトを訪れており、健康づくりに役立てています。
日本型クアオルトの登場
日本でもドイツの考え方に共感し、20世紀後半から日本にクアオルトを導入する動きが始まりました。
ただし、制度やインフラ面の違いから、ドイツと同じ形で導入するのは難しい面がありました。
そこで、日本の自然や地域の特色を活かした「日本型クアオルト」の考え方が提唱されました。
そして、今では自治体が中心となって「クアオルト健康ウォーキング」という取り組みを行っています。
クアオルト健康ウォーキングとは?
「クアオルト健康ウォーキング」は、ドイツで実践されている「気候性地形療法」の手法やコース基準を、日本の自然や気候に合わせて応用したウォーキングです。
日本では、病気の治療としてではなく、地域の人々の「健康づくり」を目指して実施されています。
現在、全国31の自治体で導入されており、認定コースも順次整備されています(2025年7月現在)。
北海道・東北エリア
・青森県:青森市
・岩手県:北上市、滝沢市
・山形県:上山市、天童市、西川市
・秋田県:三種町
関東エリア
・群馬県:上野村
・埼玉県:所沢市、横瀬町
中部エリア
・静岡県:小山町
・長野県:東御市
・愛知県:岡崎市、名古屋市中区/緑区、豊橋市
・岐阜県:岐阜市、下呂市、白川村、関市、飛騨市、美濃加茂市
・三重県:志摩市
北陸エリア
・新潟県:妙高市
・石川県:珠洲市
近畿エリア
・滋賀県:高島市
・兵庫県:多可町
中国・四国エリア
・岡山県:新見市
九州エリア
・大分県:由布市
・宮崎県:延岡市
・長崎県:西海市
クアオルト健康ウォーキングでは、試験に合格した認定ガイドが、参加者と一緒に歩きながらコース案内や運動指導を行います。
日本型クアオルトも、ドイツの理念にならい、一定の品質が保証されています。
コース設計やガイドの養成も基準に沿って行われており、参加者が安心して取り組める体制が整っています。
“頑張らない”がキーワードのウォーキング
クアオルト健康ウォーキングの大きな特徴は「頑張らなくていいこと」です。
激しい運動や、速さを競うものではなく、誰でも無理なく楽しめるよう工夫されています。
①歩く時のポイント:心拍数

ウォーキング中の心拍数は「160-年齢」を目安に行います。
これは運動強度が約55~60%となる心拍数です。主観的には「ややきつい」と感じる運動で、日ごろ運動習慣がない人でも取り組みやすいようになっています。
(※運動を日常的にしている人は心拍数が「180-年齢」となるように実施します。)
②歩く時のポイント:体表面の温度

歩行中は自然の冷気や風を活かし、体表面の温度を平均 約2℃下げるようにしてウォーキングを行います。主観的に「やや冷える」と感じる状態です。
実は、運動時の体表面の温度が、運動前に比べて平均 2℃低い状態だと、通常の倍近い運動効果が期待できるというエビデンスがあります。
健康の方程式「運動×栄養×休養」
日本型クアオルトでは、健康を「運動×栄養×休養」のバランスで捉えています。
運動(クアオルト健康ウォーキング)とともに、地元の食文化や温泉などの環境も含め、総合的な健康づくりを目指しています。
食事面では地元食材を活かした栄養指導、休養面では温泉や自然の中でのリラックスなども大切な要素となっています。
より詳しく「クアオルト」について知りたい方は、以下のHPも併せてご参照ください。
本当に健康効果はあるの?
「頑張らない運動」で本当に健康になれるのでしょうか?
「クアオルト健康ウォーキング」では、実際に医学的な検証が行われており、その効果が科学的に示されています。
今回は、2024年に『Circulation』に発表された最新の論文をご紹介します。
(クアオルト健康ウォーキングの反復が、血圧とメンタルヘルスに与える影響)
【方法】
対象:岐阜市内のクアオルトコースを2回実施した242名(平均年齢60.3歳)
測定項目:血圧、脈拍、メンタルヘルス(10項目の自己評価アンケート)
(※高血圧群(収縮期 ≥ 140mmHg、拡張期 ≥ 90mmHg)と正常血圧群で解析)
【結果】
<血圧への効果>
- 1回目と2回目ともに、ウォーキング後に有意な血圧低下が見られました。
- 2回目のウォーキング実施前の血圧は、1回目に比べて有意に低下していました。
- 血圧が高い群ほど効果が大きく、低下幅が大きいという相関が見られました。
<メンタルヘルスへの効果>
- 10項目すべてで改善が見られ、1回目と2回目で同様の改善傾向でした。
- 総スコア(最大10点):1回目=6.8点、2回目=7.4点
- 特に「爽快感」「リラックス」「活力」などの項目で高い改善傾向が見られました。
【考察・結論】
血圧の低下は、運動に伴う交感神経活動の抑制やプロスタグランジンE上昇などが関与している可能性が考えられます。メンタルヘルスの改善は、自然環境下での活動による心理的影響が寄与したと推測されます。
クアオルト健康ウォーキングは、血圧の改善効果を持続させる可能性があり、特に高血圧者に有効です。また、メンタルヘルス改善にも寄与するため、安全で有望な予防医療的アプローチと考えられます。
参考)『Effects of Repeated Kurort Health Walking on Blood Pressure and Mental Health』
まとめ
「クアオルト健康ウォーキング」はドイツの自然療法を、日本の環境や気候に合わせて取り入れたウォーキングです。
特徴は”頑張らなくていい”こと。
運動習慣がなくても、無理なく始められるのが大きな魅力です。
また、ただ自然の中を歩くだけではなく、専門ガイドのサポートのもと、心拍数や体表面の温度管理を行いながら安全に進められます。
最新の医学論文では、血圧やメンタルヘルスの改善効果が報告されており、健康への科学的な根拠があります。
お近くの自治体で、クアオルト健康ウォーキングを行っている場合は、ぜひ足を運んでみてください。
より深くクアオルトを知りたい方は、以下の参考書籍がおすすめです。
コメント