【医師が解説】話題の入浴剤「エプソムソルト」に効果はあるのか?

温泉・入浴

はじめに|エプソムソルトとは

SNSやメディアで話題の入浴剤「エプソムソルト」
欧米では古くからバスソルトとして親しまれ、近年ではハリウッド女優やプロアスリートが愛用していることから、日本でも美容や健康に関心のある層を中心に人気が広がっています。

Amazonや楽天などの通販サイトでは、「湯冷めしにくい」「肌がしっとりする」「便秘が改善した」といった高評価の口コミが多数投稿されています。

とはいえ、「本当に効果があるの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

本記事では、医師であり日本温泉気候物理医学会の会員である筆者が、温泉と入浴剤に関する知識をもとに「エプソムソルトの効果」について医学的・温泉学的な観点から検証していきます。

なお、この記事は特定の企業からの提供や報酬を一切受けておりません。
中立的な立場から執筆しています。

エプソムソルトはどの温泉に近い?硫酸塩泉とは

エプソムソルトは「ソルト」と名前にありますが、実際には塩(塩化ナトリウム)ではなく、「硫酸マグネシウム」という無機塩の一種です。
見た目が白く塩に似ていることから、このように呼ばれるようになりました。

日本における温泉(療養泉)の分類に照らし合わせると、硫酸マグネシウムを主成分とする泉質は「4.硫酸塩泉」に該当します。

療養泉の分類
  1. 単純温泉
  2. 塩化物泉
  3. 炭酸水素塩泉
  4. 硫酸塩泉
  5. 二酸化炭素泉(炭酸泉)
  6. 含鉄泉
  7. 酸性泉
  8. 含よう素泉
  9. 硫黄泉
  10. 放射能泉

硫酸塩泉は「温泉水1kg中に含まれる含有成分が1,000mg以上存在し、陰イオンの主成分が硫酸イオンのもの」と定義されています。

では、実際にエプソムソルトを家庭の浴槽に入れた場合、お湯にはどの程度の硫酸マグネシウムが溶けているのでしょうか?
ここでは、アースコンシャス株式会社が販売するエプソムソルトを例に挙げます。

【ご使用方法】
ご家庭の浴槽200Lに本品100g(付属の計量スプーンですりきり5杯)を入れ、よくかき混ぜて入浴してください。浴槽の大きさやお湯の量に応じて、量は適宜調整して下さい。

【成分】硫酸マグネシウム

アースコンシャス株式会社 商品ページより

この使用方法に基づいて濃度を計算すると、水1kgあたりに含まれる硫酸マグネシウムの量は約500mgとなります。

この数値は硫酸塩泉の基準(1,000mg/kg)には届かないため、硫酸塩泉の定義上の濃度は満たしていません。とはいえ、自宅で硫酸塩泉に近い成分を含む湯を再現できる入浴剤としては興味深い商品です。

エプソムソルトの健康効果は?

硫酸塩泉のような療養泉の基準濃度を満たしていないなら健康効果はないのでしょうか?
実は、必ずしもそうとはいえません。

日生気象会誌に掲載された「水浴における入浴剤成分による生体への作用」という研究では、硫酸マグネシウムを用いた入浴によって皮膚の血流量が有意に増加したという報告がされています。

参考)永井克介,渡邊智,川崎義巳:水浴における入浴剤成分による生体への作用.日生気象会誌 1992:29(1):25-33

湯に溶けた硫酸マグネシウムは皮膚表面に薄く付着し、塩類の膜を形成することによって熱の放散を抑えます
肌表面から熱の放出が抑えられることで体温が維持され、温熱効果によって皮膚血流が促進されるのです。

したがって、「よく温まる」「湯冷めしにくい」といった口コミは、単なる主観ではなく、一定の科学的な根拠があると言えるでしょう。

口コミで見られたその他の健康効果に対する考察

美肌効果

エプソムソルトを使用して「肌がきれいになった」「しっとりした」という口コミが見られます。

確かに、湯中に溶けたマグネシウムイオンが肌あたりをやわらかく感じさせたり、皮膚血流の増加が肌のコンディション改善に寄与したりする可能性は考えられます。

しかし、肌の老化を遅らせる、あるいはターンオーバーを促進するといった効果に関しては、現時点では科学的エビデンスが不足しています。
そのため、エプソムソルトに明らかな美肌効果があるとは言いがたいのが実情です。

むしろ、エプソムソルトは無香料・無着色防腐剤無添加であり、余分な添加物が含まれていないことが特徴です。
肌への刺激が少ないため、敏感肌の方でも使いやすい入浴剤であるという点では一定の評価ができます。

便秘改善

便秘の治療薬として、病院では「酸化マグネシウム」が広く処方されています。
これは内服した酸化マグネシウムが腸管内に水分を引き寄せて便をやわらかくし、腸の蠕動運動を促進する作用によるものです。

エプソムソルトにもマグネシウムが含まれていることから、「便秘にも効果があるのでは」といった口コミが見られます。

しかし、マグネシウムの排便促進作用は経口投与に限った話であり、入浴によって同様の効果が得られるわけではありません

確かに、入浴でマグネシウムが皮膚から吸収されるという報告は存在します。
ですが、皮膚から吸収されたマグネシウムが腸管に影響を及ぼすという根拠は乏しいです。

実際、温泉法に基づく療養泉の適応症を見ると、硫酸塩泉の「飲用」では便秘への効果が明記されている一方で、「浴用」にその記載はありません。

このことからも、浴用による便秘改善効果があるとは言えません
なお、エプソムソルトを入れた湯を飲用することは健康リスクがあるため避けましょう。

実際に使ってみた

アースコンシャス株式会社が販売するエプソムソルトを購入してみました。

開封してみると、ややしっとりとした白色の粗塩状の結晶で、香りはありません。

使用方法に従い、浴槽200Lに対して100g(付属の計量スプーンですりきり5杯)を入れ、よくかき混ぜてから入浴しました。

普段の入浴と比べて大きな違いがあったとは言いがたいですが、いつもよりお湯がなめらかに感じられました。
また、お湯の温度は普段と変えていないものの、体感的に少し熱く感じたことから、温熱効果の影響があった可能性も考えられます。

ただし、一回の使用では体調に目立った変化は認められず、効果を実感するには継続的な使用が必要だと感じました。

まとめ

エプソムソルトは、硫酸マグネシウムを主成分とする入浴剤であり、日本の温泉(療養泉)分類では硫酸塩泉に近い性質を持っています。

温熱効果や皮膚血流の増加といった作用には科学的根拠があり、「よく温まる」「湯冷めしにくい」という口コミには医学的な裏付けがあると考えられます。

一方で、「美肌」や「便秘改善」といった効果に関しては、科学的エビデンスは乏しく、過度な期待は避けるべきだと考えます。

ただ、無香料・無添加で肌への刺激が少なく、敏感肌の方でも使いやすいという点は、日常の入浴における選択肢としては十分に価値があります。
日々のセルフケアの一環として活用してみるのはいかがでしょうか。

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