はじめに|入浴剤BARTHとは?

入浴剤ランキングでは常に上位、ベストコスメ受賞など話題の入浴剤「バース(BARTH)」。
世界的にも珍しいドイツの「中性重炭酸泉」から着想を得た入浴剤で、独自のコンセプトが注目されています。
【BARTH 製品説明】
BARTH ホームページより
ドイツの希少な泉質「中性重炭酸泉」から着想を得た中性重炭酸入浴剤。
重炭酸イオンを豊富に含むお湯が温浴効果により血行を促進、疲労回復・肩こり・腰痛・冷え症などへの効果が期待できます。
カラダを芯まで温める重炭酸入浴でその日の疲れをとり、眠りにつくための準備を。
Amazonや楽天などの通販サイトでは多数の高評価を得ており、SNSでも「疲れが取れた」「睡眠の質が上がった」といった声が多く見られます。
しかし、「本当に効果があるの?」と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
本記事では、医師であり、日本温泉気候物理医学会の会員である筆者が、温泉の知識をもとにBARTHの健康効果について医学的・温泉学的な観点から検証していきます。
なお、BARTHを製造・販売するアース製薬株式会社からは一切の報酬や商品提供を受けておりません。完全に独立した立場で執筆しています。
BARTHはどの温泉に近い?中性重炭酸泉とは
BARTHの商品説明には「中性重炭酸泉」から着想を得たとあります。
この”中性重炭酸泉”とは、いったい何でしょうか?
鉱泉分析法指針において、日本の温泉(療養泉)は以下に分類されます。
- 単純温泉
- 塩化物泉
- 炭酸水素塩泉
- 硫酸塩泉
- 二酸化炭素泉(炭酸泉)
- 含鉄泉
- 酸性泉
- 含よう素泉
- 硫黄泉
- 放射能泉
このうちBARTHの目指す”中性重炭酸泉”は「3.炭酸水素塩泉」に該当します。
炭酸水素塩泉は「温泉水1 kg中に含まれる水以外の成分が1000 mg以上存在し、そのうち炭酸水素ナトリウム (NaHCO3) の含有量が340 mgを超える温泉」と定義されています。
では、BARTHを浴槽に溶かした場合、お湯に含まれる成分はどうなるでしょうか?
【おすすめの入浴法】
37~40℃のぬるめのお湯(160ℓ)に1回3錠を目安に入れ、すべて溶けてから入浴してください。ゆったり15分以上お湯に浸かってください。【成分】
BARTH ホームページより
有効成分:炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム
その他の成分:無水クエン酸、PEG6000、ビタミンC・Na、他1成分
公式ホームページで推奨されている入浴法を参考に計算してみます。
BARTHに含まれる成分の内訳は不明ですが、推奨どおりに160Lのお湯に3錠(約45g)溶かしても、BARTHはお湯1Lあたり約280mgにとどまり、炭酸水素塩泉の基準を満たしません。
つまり、BARTHは「炭酸水素塩泉に近い状態を人工的に作る入浴剤」であり、炭酸水素塩泉の泉質には該当しないということになります。
BARTHの成分と“泡”の誤解
BARTHの商品ページでは、「きめ細やかな泡が出る」「シャンパンのような繊細な泡」など発泡感が強調されています。
しかし、BARTHの有効成分は「炭酸水素ナトリウム(NaHCO₃)」と「炭酸ナトリウム(Na₂CO₃)」の2つのみ。
発泡を生じさせるクエン酸が補助的に添加されていますが、これはあくまで中和を目的としたものであり、泡(炭酸ガス)は副次的に発生するに過ぎないと考えます。
ちなみに、炭酸ガス(CO₂)そのものが有効成分として認められるのは、療養泉の分類上「5.二酸化炭素泉(炭酸泉)」にあたる泉質です。
一方、BARTHが目指している「重炭酸泉」は「3.炭酸水素塩泉」に分類されるものであり、両者は温泉学的に区別されます。
にもかかわらず、口コミやブログの一部では、BARTHをいわゆる「二酸化炭素泉(炭酸泉)」と同一視するような記載が散見されます。しかし、成分構成から見ても、こうした認識は誤りです。
実際、口コミの中には「思ったより泡が出ない」「発泡感が物足りない」といった声も見受けられます。これはBARTHの特性上むしろ妥当な評価といえるでしょう。
BARTHの使用時に発生する泡の量はごくわずかであり、健康効果が期待できるほどのCO₂濃度ではありません。そのため、「泡」に医学的な健康効果を期待することは現実的ではないと考えます。
なぜ中性を保つのか?
BARTHは、”中性重炭酸泉”から着想を得た入浴剤です。ではなぜ、“中性”を保つことにこだわる必要があるのでしょうか。
実は、市販の重曹(炭酸水素ナトリウム)だけでも、理論上は炭酸水素塩泉に近い湯質を再現することが可能です。
しかし、重曹を単独でお湯に投入すると、pHがアルカリ性に傾き、浴槽中の炭酸水素イオン(HCO₃⁻)の安定性が損なわれてしまうのです。
そこでBARTHでは、クエン酸を添加することでpHを中性付近に保ち、炭酸水素イオンを安定的に浴槽中に溶存させる工夫が施されています。
このような設計により、中性の炭酸水素塩泉の状態を、家庭の浴槽でも再現しようとしていると考えられます。
BARTHの健康効果は?
温泉学的視点からの検討
BARTHが目指す「炭酸水素塩泉」には、実際どのような健康効果があるのでしょうか。
以下は、お湯の成分と深部体温の変化を比較した研究です。

参考:「最新温泉医学」著:日本温泉気候物理医学会 p30
このグラフからも分かるように、「炭酸水素塩泉(炭酸水素ナトリウム)」は一般的な水道水での入浴と比べて、「入浴後の体温がより高く上昇し、出浴後の体温低下がやや早い」という特徴が報告されています。
この作用は、湯中に含まれる塩類(主に炭酸水素ナトリウムなど)が皮膚表面に付着し、薄い膜を形成することで熱の保持性を高める=温熱効果によると考えられています。
実際に、BARTHの利用者からは「普通の湯船よりも温まる」「汗が出やすくなる」といった声が見られます。
これは、BARTHが人工的に炭酸水素塩泉に近い環境を再現していることにより、一定の温熱効果が得られている可能性を示しています。

また、「よく眠れるようになった」という口コミも少なくありません。
一見すると主観的な印象に思えるかもしれませんが、これも深部体温の観点から見ると理にかなっています。
睡眠と深部体温には密接な関係があり、「深部体温が下がりはじめたタイミングで眠気が生じやすく、特に急激に下がると入眠しやすい」ことが分かっています。
お風呂に入ったあとしばらくして眠くなる、という感覚はこのメカニズムに基づいています。
ここで注目すべきは、炭酸水素塩泉の「しっかり温まり、冷めるのが早い」という性質です。
BARTHはまさにこの泉質を模しているため、体温をいったんしっかり上げたあとスムーズに下げることで、眠気を引き出しやすい環境を整えているとも言えます。
入浴剤の健康効果についてのエビデンスは限られていますが、少なくとも「温まりやすい」「よく眠れる」といった利用者の実感については、一定の説明が可能です。
BARTHの効能について
BARTHの製品情報に記載されている効能は以下の通りです。
【効能】
疲労回復、肩のこり、腰痛、冷え性、神経痛、リウマチ、痔、うちみ、くじき、あせも、しもやけ、荒れ性、ひび、あかぎれ、にきび、しっしん、産前産後の冷え性
これらは入浴剤において一般的に認められた「温浴による効果」であり、BARTHに特有の効能ではありません。
BARTHが炭酸水素塩泉に近い環境を再現できたとしても、過度な健康効果を期待することは現実的ではないでしょう。
BARTHの推奨する入浴法と注意点
BARTHは、以下の入浴法を推奨しています。
【おすすめの入浴法】
BARTH ホームページより
37~40℃のぬるめのお湯(160ℓ)に1回3錠を目安に入れ、すべて溶けてから入浴してください。ゆったり15分以上お湯に浸かってください。
BARTHを使う際には以下の点に注意して入浴しましょう。
- お湯160Lは一般的な浴槽に対してやや少なめで、半身浴程度の水量です。
- 3錠すべて溶かしてもお湯の成分は炭酸水素塩泉の基準を満たしません。1錠や2錠では効果がさらに限定的となります。
- BARTHは溶けるまでにやや時間がかかるとの口コミも見られ、十分に溶け切らない状態で入浴してしまうと、有効成分の恩恵を十分に受けられない可能性があります。
- 15分以上の入浴が前提とされているため、短時間の入浴では温熱作用が得られない可能性があります。
口コミで見られたその他の健康効果に対する考察
美肌効果
BARTHを使用後に「肌がヌルヌルする」「すべすべになる」といった意見が見られます。
実際、主成分である「炭酸水素ナトリウム(NaHCO₃)」と「炭酸ナトリウム(Na₂CO₃)」には洗浄効果があり、皮膚表面の皮脂や汚れをある程度落とす働きがあります。
これらの成分が一部の洗顔・洗髪料・化粧品等にも配合されていることから、一定の肌なじみの良さがあるのは事実です。
しかしながら、浴槽に溶けた有効成分の濃度は極めて低く、明らかな美肌効果が得られるとは考えにくいのが実際のところです。
むしろ、BARTHは香料や着色料といった添加物が少ない点が特徴です。
また、含有されているビタミンCには、水道水に含まれる残留塩素を中和する働きがあります。これにより、塩素による皮膚刺激を緩和する効果も期待できます。
つまり、BARTH自体に強い美肌効果があるとは言い難いものの、皮膚への刺激が少なく、敏感肌の方でも比較的使いやすい入浴剤というでは一定の評価ができます。
ダイエット効果
「BARTHを使って痩せた」という口コミも一部に見受けられます。
ですが、その多くは入浴による発汗によって一時的に体内の水分が失われた結果としての“見かけ上の体重減少”に過ぎません。
温熱効果により、発汗量が一時的に増える可能性はありますが、入浴そのものによるカロリー消費量はわずかであり、ダイエット効果は期待できません。
泡による血管拡張作用
「二酸化炭素泉(炭酸泉)」では皮膚から吸収されたCO₂が血中に移行し、血管拡張作用をもたらすことが知られています。
ですが、BARTHは「二酸化炭素泉(炭酸泉)」のように炭酸ガス(CO₂)を有効成分として設計された入浴剤ではなく、「炭酸水素塩泉(重炭酸泉)」を模した商品です。
つまり、BARTHを使用した際に出る細かい泡に医療的な血流改善効果は期待できないと考えられます。
結論
BARTHは、有効成分である「炭酸水素ナトリウム」と「炭酸ナトリウム」によって「炭酸水素塩泉」を目指した入浴剤です。
商品パッケージには、発泡する様子を強調した写真や「重炭酸」という言葉が大きく記載されており、細やかな炭酸ガスが直接的に体に働きかける印象を与えるデザインになっています。
しかし実際には、BARTHは「二酸化炭素泉(炭酸泉)」ではなく、「炭酸水素塩泉(重炭酸泉)」の再現を目指しており、“泡”そのものに健康効果は期待できません。
むしろ、炭酸水素塩による温熱効果が主作用と考えられ、明確なエビデンスは存在しないものの、「温まりやすい」「眠りやすい」といった体感的な変化に関しては、温泉医学の知見からも一定の説明が可能です。
また、成分は非常にシンプルで、美容効果を強く期待できるような配合にはなっていません。
ただし、香料や防腐剤などの添加物が少ないため、肌への刺激が少なく、敏感肌の方には好まれる可能性があります。
香りがないことへの不満の声もありますが、これは「香りでごまかさない」という開発コンセプトであり、むしろ誠実なアプローチと評価できます。
総じて言えることは、「BARTHは体に悪いものではなく、むしろ余分な添加物が少なく安心して使える」という点です。そのうえで、もし体感的に効果を感じられるのであれば、継続して使用するのも一つの選択肢といえるでしょう。
入浴剤は“気持ちよく過ごす”ためのものであり、自分の感覚やライフスタイルに合った使い方をしていくことが大切です。医学的な視点を参考にしつつ、自分なりの心地よさを見つけてみてください。
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