草津温泉がアトピーに効く!? 酸性の湯に潜む殺菌パワー

自然処方

草津温泉の特徴

草津温泉は、群馬県草津町にある日本を代表する温泉地のひとつです。
標高約1,200mの高原に位置し、夏は涼しく、冬は雪景色も楽しめるロケーションで、多くの観光客が訪れます。
その魅力のひとつが「湯畑(ゆばたけ)」と呼ばれる温泉の源泉地。
街の中心で湯けむりを上げるその光景は圧巻であり、草津温泉を象徴する存在です。

草津温泉の湯畑

草津温泉の主たる泉質は「酸性-アルミニウム-硫酸塩-塩化物」の高温泉です。
pHは2.0前後と強い酸性であるため、釘を湯の中に入れておくと10日ほどで融けてなくなってしまうと言われています。
また、湧出温度は50~90℃近くと非常に高温です。そのため、熱くてそのままでは入浴できないお湯を、板でかき混ぜて温度を下げる「湯もみ」という伝統的手法が行われています。

このように草津温泉は「強酸性 × 高温」という、個性的な泉質を持っています。

草津温泉がアトピー性皮膚炎に有効!?

アトピー性皮膚炎は、痒みを伴う慢性の皮膚疾患であり、特に成人型では再発を繰り返す難治性の例も少なくありません。
一般的な治療は、ステロイド外用薬保湿剤の継続使用により、皮膚のバリア機能を保ちつつ、炎症を抑えることが中心となります。

一方で、古くから温泉はさまざまな皮膚疾患の治療に用いられてきた歴史があります。
中でも、草津温泉は強酸性かつ高温泉という特徴的な泉質によって、皮膚症状の改善が期待されてきました。

実際に、草津温泉での温泉療法が成人型アトピー性皮膚炎に対して有効であったとする臨床研究を紹介します。

成人型アトピー性皮膚炎患者に草津温泉療法を行った研究

旧草津分院 平成2年6月~平成14年1月

対象:成人型アトピー性皮膚炎患者 131人(男性76人、女性55人)

方法:草津温泉(40~42℃)にて1日1~2回、10分間の座位浴。入院期間13~228日(平均72日)

結果
106例(81%)で皮膚症状の改善が見られた。
・皮膚症状が改善した患者のうち、掻痒感も軽減した症例は106例のうち77例(73%)であった。
・温泉による湯ただれや湯あたり等の副反応は報告されず、安全性は高いと評価された。

参考)「最新温泉医学」著: 日本温泉気候物理医学会 久保田一雄:239-244

このように、アトピー性皮膚炎の改善効果が示される一方で、温泉療法には以下のような臨床的限界もあります。

  • 長期間(数週間〜数か月)にわたる継続的な入浴が必要。
  • 効果の持続時間や再発リスクに関する長期的なデータが不十分
  • 皮膚状態や個体差によっては、酸性・高温浴が刺激となる可能性もある。

また、近年では、デュピルマブ(商品名:デュピクセント)に代表される分子標的治療薬の登場により、アトピー性皮膚炎に対する治療の選択肢は大きく広がりました。
これらの薬剤は、従来の治療で効果が乏しかったアトピー性皮膚炎の重症例にも有効であり、現代の治療の中核となりつつあります。

したがって、草津温泉をアトピー性皮膚炎の治療手段として積極的に推奨する立場にはありません

ただし、草津温泉が皮膚症状の改善に寄与しうるという研究の知見は大変興味深いと考えています。
また、この皮膚症状改善の背景として、「草津温泉の殺菌作用」が注目されています。

草津温泉の殺菌効果

先述の研究では、草津温泉への入浴によって成人型アトピー性皮膚炎の症状が改善した要因の一つとして、「黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)」に対する殺菌作用が注目されました。

アトピー性皮膚炎では、皮膚に存在する黄色ブドウ球菌の量と症状には相関があることが知られています。実際、同研究でも多くの対象者の皮膚からこの菌が検出されていました。
そして、温泉療法後に症状が改善した患者では、黄色ブドウ球菌の検出率が減少または消失していたと報告されています。

草津温泉の泉質はpH2前後の強酸性であり、「酸性-アルミニウム-硫酸塩-塩化物温泉」に分類されます。この強い酸性環境と含有成分が細菌の増殖を抑制した可能性が示唆されています。

こうした背景を踏まえると、草津温泉は単なる癒しの湯としてだけでなく、一時的に皮膚の環境を整える機能をもった温泉としても注目できます。
このような視点で入浴することで、温泉の楽しみ方や捉え方が少し変わってくるかもしれません。

実際に草津温泉に行ってみた感想

ということで、実際に草津温泉を訪れてみました。

今回は、草津温泉の老舗旅館「大阪屋」に宿泊・入湯しました。

泉質は強酸性ということで、「かなりピリピリするのでは」と身構えていたのですが、実際に入浴してみると肌にまとわりつくような、ややとろみのある不思議な湯触りで、刺激感は意外と控えめでした。むしろ、肌が包まれるような感覚が印象的でした。

また、試しに原湯を指先につけて舐めてみると、苦味と酸味が混ざった”苦い酢”のような味でした。お世辞にも美味しいとは言えませんが、どこか「効きそう」だなと思わせる味がするのが面白いところです。
湯上がり後は、皮膚が引き締まったような感覚と、さっぱりとした清涼感がありました。

まとめ

草津温泉は、強酸性かつ高温という特徴的な泉質を持ち、歴史ある湯治場として知られてきました。

実際にアトピー性皮膚炎の症状が改善したという研究もあり、そのメカニズムとして黄色ブドウ球菌への殺菌作用が注目されています。

ただし、現代のアトピー治療は進化しており、温泉だけで完結するものではありません。
草津温泉を医療の代替と考えるのではなく、肌環境に良い影響を与える可能性のある温泉として、正しく理解して楽しむことが重要です。

旅行の一環として訪れる際にも、草津の湯がもつ科学的な特性に少しだけ目を向ければ、より深く楽しむことができるはずです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました